<無料学習会に関する講演や感想等>

「初めまして ひこばえ無料学習会です。」          平成29・5・2
                    無料学習会講師  高橋英代

 
○はじめに
  こんにちは。このたびここに、「ひこばえ無料学習会」についての寄稿をさせていただけますことをたいへん光栄なことと感じております。心より御礼申し上げます。
 
  最初に「認定NPOひこばえ」のことと「無料学習会」設立の過程について紹介をさせていただきたいと思います。
「ひこばえ(蘖)」とは伐った根株から出る新芽のことです。自分の『新しい芽』を大切にして生きていけますようにとの願いから命名されました。
「ひこばえ」では、DV(家庭内暴力)・虐待・性被害等で傷つけられた人々が心身の尊厳を回復し、新たな人生を歩みだすための安全・安心の場を提供し、自立に向けての総合支援を行っています。2009年にNPOとして設立されました。
 
  それから5年、世の中には経済的格差の嵐が吹き荒れ、内閣府からも、貧困家庭の子どもは6人に1人の割合で存在し、母子家庭の子どもの2人に1人は貧困であるという発表がなされました。国としてもこの現状を放置できず、平成27年から生活困窮者の自立支援政策に乗り出したのは周知のとおりです。
時を同じくして、女性と子どもを支援している「NPOひこばえ」でも、面前DVにあってきた子どもたちの心のケアをしながら勉強を身に付けていけるよう、母子家庭を対象に「無料学習会」設立の準備が始まりました。
 
  両親のDVを見てきた子どもたちは、自分が虐待されたのと同じ精神状態になります。自分のせいでこうなったと自分を責めます。子どもたちには何の罪もないのに、いい子にして、この母親を守りたいと真剣に思っています。
また、事情があって離婚をした母子家庭の母親は、毎日子どもを食べさせるために精一杯忙しく働いています。でも、思うような生活環境が得られません。子どもたちも好きな習い事をしたいとか、勉強がわからないとかは言えず、不満を持ちながらもいい子にして家にいます。家にいられず外のグループに身を置いてしまう子もいます。不安なのです。自分が放り出される恐怖と戦いながら、今日一日生き延びることに必死なのです。勉強するどころではありません。
 
  この子どもたちに、自信をもって社会に羽ばたいていってもらいたい。そのために、いま私たち大人ができることを提供していこうと、そんな願いの下、2015年4月、前橋市に「ひこばえ無料学習会」がオープンしました。
 
○無料学習会スタート!
  「ひばえ学習会」は小学生対象です。1年目は毎週土曜日の14:00~16:00、「前橋プラザ元気21(前橋市中央公民館)」の会議室を借りて始まりました。現在は前橋総合福祉会館の会議室が活動の拠点です。初日は5人のお子さんが参加してくれました。いまは1年生から6年生までのお子さんたち10人~15人が通ってきてくれています。
「ひこばえ学習会」は、傷つきやすいお子さんたちの心のケアにも重点を置いています。そこを大切にした独特なカリキュラムを作りました。開始時間になるとまず、皆で輪になって座り「始まりの会」というのをします。自分の名前と学年、今日やりたい事(勉強)を発表してもらいます。それから毎回質問を1つします。「あなたの一番好きな動物は?」とか「夏に食べたいものは何?」とかです。ときには理由も言ってもらいます。講師も参加して話をすることで、話の仕方、自分の紹介の仕方などが学べますし、友だちのことをよりよく知ることができます。学習に入る前の心の安定にたいへん役立っています。
 
  勉強は前半と後半に分け、途中の休憩時に少しだけおやつを食べます。子どもたちにとってはお楽しみの時間です。会の最後には、また皆で輪になって座り「終わりの会」をします。今日やったことと今の気持ちを発表してもらいます。講師も自分が担当した子がどんな勉強をしていて、どんなところが難しかったかなどを話します。
 
  こうして一人一人が取り組んだ学びを皆で共有し合うことで仲間意識が高まります。そして子どもにとっては、自分が頑張ったことを(家庭ではお母さんだけですが)ここでは複数の大人が聴いて「頑張ったね」と言葉をかけてくれるので、納得安心をして自信をもって次の学習へと進んでゆくことができます。
 
  学習会がスタートした初めの頃は、世間一般にある学習塾のような雰囲気でした。子どもたちは明るく礼儀正しいですし、勉強道具やノート・文房具などはきちんと持ってきます。この子どもたちのいったいどこに、貧困とか心の傷とかが隠れているのだろうかと、疑問に思いました。しかし、その答えはすぐにやってきました。学習会や大人に慣れてきて自分の本性を出したいという気持ちもあるのでしょう。だんだんと、「忘れた」と言って勉強道具を何も持ってこなかったり、短時間の集中も続かず、席を立ったりという子が続出し始めました。勉強している子たちの前で紙飛行機を飛ばしたり、突然部屋を出て行ってしまったり、下を向いて一日中絵を描き続ける子もいました。友だちと一緒に同じ課題をしていても、自分だけができないとプイっと怒りだす子、外に出て講師をにらみつける子、突然情緒不安になって泣き出す子など、子どもたちはさまざまな表情を見せ始めました。それは、「こんなことをしても、あなたたちは僕を(私を)受け止めてくれるのか?」と大人を試しているようにも見えましたし、何か得体のしれない怖いものにおびえているような、そんな眼差しにも見えました。
 
 あとで、この子たちの置かれたそれぞれの家庭の事情(DV・母親の男友だち・離婚による母親の重圧など)を深く知った時、この子たちは本当に、勉強どころではない心の状態なのかもしれないと知りました。また、隠れた貧困というのでしょうか、こんなこともありました。
  ある小6の女の子は、他の6年生の子たちに比べるととても小柄です。勉強は一生懸命する子でよく出来ました。あるとき、この子が休憩時間になると急いでおやつのところに行く姿を見て、もしかしたらお腹がすいているのではないだろうか、と思うようになりました。急遽お母さんと面談をしたところ、このお家の家計がたいへんな状況であることが分かったのです。食材も満足に買えず、服や生活用品も他からの貰い物でしのいでいるということでした。NPOからもできるだけの物品支援をして、その他(民間や公的な)支援も受け入れるようお母さんに提案しました。でも、お母さんとしては、「困ってはいるが、子どものためには公にできない」という複雑な心情の吐露がありました。子どもの名前が知れて学校や周りから、どんな目で見られるのか、それが怖いのだと話してくれました。
 このお母さんからは、お子さんが中学に入るとき、準要保護申請を出したが制服が買えないという相談もありました。いろいろ調べて、リサイクルの制服が貰えるところを教えたり、また個人的にもさまざまな伝手を頼って、何とか入学前に制服一式を揃えることができました。
 
  こうして、子どもたちの厳しい状況を垣間見て、こんな身近にこのような子どもさんたちがいたということを知った時、今までの自分は本当にのほほんとして生きていたのだと思いました。とても衝撃的でした。TVや新聞などで、子どもたちに忍び寄る格差や貧困について知ってはいたものの、どこか自分とは違う世界のことのように感じていたのです。自分の目で見るということがいかに大事かということを思い知らされました。学習会の子どもたちのことがとても身近に感じられるようになってきました。
 
○心のケアと二年目の歩み 
 1年目後半からは、勉強と並行して「心のケア」というプログラムを積極的に取り入れるようになりました。
それは主に、『遊び』と『心の天気』というワークです。休憩時間に、子どもたちは大人と外に出て鬼ごっこをしたりして走り回ります。このときは、男性ボランティアスタッフと学生さんたちが大活躍です。思いっきり外の空気を吸ってくると、子どもたちの顔は生き生きとしてきます。大きな声で笑います。気持ちの切り替えも上手にできるようになりました。
  『心の天気』とはフォーカシングを応用して、自分の心の中の気持ちを、お天気や心象風景を描くことで表現する作業です。晴れが良くて雨が悪いということはありません。土砂降りや雷の日もあります。子どものどんな気持ちも批判・否定をせず、ありのままの気持ちを大事にします。子どもたちが自分の中にある『なにかもやもやした気持ち』を絵で表現できた時、ほっとしたような表情を浮かべることがあります。氷がとけだすかのように、自分や家族のこと、幼い時の家族の思い出などを話し出すお子さんもいます。
傷ついた子どもたちのケアは早ければ早いほど回復につながるのだそうです。子どもたちの心に丁寧に寄り添いながら、安定した学習姿勢が身に付くよう、全力で取り組んでいます。
 
  昨年夏には、県の母子会主催の無料学習会が玉村町にも立ち上がり、講師と運営を「ひこばえ」がお手伝いをしました。玉村教室も随時10名以上のお子さんが参加してくださり、盛会のうちに第1回目(7月~2月の8か月間)が終了しました。6月からは第2回目(8か月間)が再スタートします。
 
  前橋教室は3年目に入ります。夏はバーベキュー大会、秋はハロウインパーティー、冬はクリスマスパーティー、3月は学年末修了パーティーと、イベントも積極的に取り入れています。修了パーティーでは、卒業する6年生のために、講師全員で心をこめて書いた寄せ書きを贈ります。今年の修了パーティーは皆でカレーを作って食べました。
  子どもも大人もすべてを忘れて楽しめるイベントタイムは、誰もがホッと気持ちを休めることのできる大切な心のオアシスタイムとなっています。
 
  今後の「ひこばえ学習会」の課題は、ボランティア講師不足の解消と、固定の学習会会場を見つけることです。また会の運営資金は企業などからの助成金が頼りの状況です。子どもたちの幸せな未来のために、多方面からのあたたかなご助言・ご支援をいただけると嬉しいです。本日はお読みいただきまことにありがとうございました。
 

   講演会の開催
                          平成29.7.29
                   無料学習会講師 石坂公俊
 
○『学習支援の役割とは』
県内でも広がりつつ無料学習会の役割などについて知ってもらおうと講師の石坂公俊より「子どもの貧困と支援」というテーマで,7月4日(火)にコープぐんまの皆様に講演会を実施しました。
 
 ひこばえ学習会は現在,前橋市と玉村町で活動中です。学習支援の重要性は言うまでもありませんが,学習支援以外の支援も重要視しています。例えば,社会で生きるために必要な他人との付き合い方,目標に向けて最後までやり抜く力,学習習慣,生活習慣,価値観など多くの事柄です。これらの役割を果たすのは親だけではなく,第三者である,あらゆる周囲の大人であってもよいことなどが報告されました。
 
 ひこばえ学習会は学習支援以外の取り組みも重要視しています。様々な経験から子ども達には将来の自分の姿を想像し,何かの目標に向かっていくことの大切さを感じてほしいと願っています。
 
○『子どもの貧困を知ってください』
貧困状態にある子どもの実態について知ってもらおうと講師の石坂公俊より「知っていますか?子どもの貧困」というテーマで,7月8日(土)に高崎カウンセリング協会の皆様に講演会を実施しました。
 
 日本の子どもの相対的貧困率は最悪レベルです。そしてユニセフのレポートにもあるように先進国の中でも日本の子どもたちが特に深刻な貧困状態にあることがまとめられています。また最近の様々な調査によって子どもの低学力,不登校・高校中退の割合,健康状態への影響など世帯の経済状況と大きく相関していることなども明らかになってきたことなどが報告されました。
 
 ひこばえ学習会では,子どもの貧困を世帯の問題,そして社会問題として認識してもらう活動も進めています。私たち一人ひとりに何が出来るのか,自分の問題として捉える事が大切だと考えています。                                                    

  学習支援事業の感想
                          平成29.10.12
                  玉村町母子会  蔵内沙織

 
 この学習支援に子ども達を参加させてみようと思った一番の理由は、全教科を教えて頂けるということでした。そして、はじめて教室に行った時、「ここを居場所にして下さい。」と言って頂きました。子ども達には初めての居場所、そして、他の学校のお友達に緊張しながらも、何回も通っているうちにとっても仲良くなり、楽しく通えるようになりました。それは私たち親も同じ思いで、いろいろな人と友達になる事ができました。
 ここでは、勉強も宿題も見てもらったり、本を読んだりと子ども達一人一人のペースや性格に合わせて進めて頂き、とても楽しく勉強ができているようです。そして先生と子ども達の間に信頼関係ができ、この人は自分のことをわかってくれる、ちゃんと向き合ってくれる先生達なんだと、いろいろなことを話すようになりました。今では自分の好きなもの、得意なこと、そして悩み事なども相談するまでになりました。先生方もそれをちゃんと聞いてくれて、子ども達の自信に繋がっていきました。
 また、私たち親の悩み、子育ての相談も聞いて頂き、たくさんのアドバイスをもらい、「大丈夫よ、お母さん。」と言っていただいた時はとてもうれしく思いました。
 学習支援に1年間通い、子ども達はとても大きく成長しました。初めは下を向いてばかりだったのが、たくさんのお友達や先生方と一緒にいた事で、しっかりと前を向き、とてもいい顔をしているのを見て、学習支援に通わせて良かったと思いました。そして、この場所がいつからか子ども達の居場所になっていたんだと思いました。子どもにとって家庭や学校以外にも居場所がある事はとても安心感に繋がると思います。
 精神的にも大きく成長する時期に、このような事業に参加させて頂きとてもうれしく思います。そして先生方にはとても感謝をしております。
 この学習支援の輪がもっとたくさんの地域に広がっていき、たくさんの子ども達の居場所になればと思っています。
 

 ひこばえ「無料学習会」の活動紹介
                           平成29.11.14
               ひこばえ無料学習会講師 高橋英代

 
 
 無料学習会講師による事例発表
前橋市市民活動支援センター(Mサポ)主催による「子どもの健全育成」に関わる活動を行っているNPO法人やボランティア団体による『分野別交流会』が、平成29年11月4日(土)に、プラザ元気21Mサポ交流スペースにおいて開催されました。
 この交流会は、「食の支援」、「学習支援」、「居場所作り」などに取り組んでいる団体の活動紹介、事例発表、団体間の交流・情報交換を目的としたものであり、当日は22団体、33名の参加がありました。
事例発表として「認定NPO法人ひこばえ」で、無料学習会講師をしている高橋英代さんより事例報告が行われました。
 以下、その講演内容を掲載致します。
 
 NPO法人ひこばえは、2015年4月、前橋市にて、母子家庭のお子さんを学習面で支援することを目的とした「無料学習会」を設立しました。昨年夏には、玉村町でも県の母子会主催の「無料学習会」が誕生し、その運営もひこばえがお手伝いしています。
 本日は、私がボランティアで講師として参加している前橋の「無料学習会」について報告させていただきます。
 
(1) 学習会の様子
 前橋の無料学習会は、今年で設立3年目に入りました。現在、小学校1年生から中学1年生まで11人の子供たちが通ってきてくれていて、送迎は保護者がしてくれています。学習会の開催日は毎週土曜日で、月に4回、前橋総合福祉会館の一室を借りて午後の2時から4時まで教室を運営しています。
①様々な工夫  
 子供たちは、初めて学習会に来た時はとても「いい子」でお勉強もしっかりやります。でも、全員がそうというわけではなく、3分の2くらいの子供たちは、だんだんと勉強道具を持ってこなくなったり、何もせずうろうろしたり、お友達にちょっかいを出したりするなど、落ち着かない行動を見せ始めます。そんな子供たちに、なんとか1時間だけは勉強に集中してもらえるよう、講師達は毎回、様々な工夫をしています。別の部屋で1対1で勉強をみたり、即興で手作り豆テストを作ったり、最近では、教室に各学年ごとのドリルと問題集を用意し、プリント一枚ができたら1枚シールが貰え、シールが15枚集まったら景品がもらえるというシートを用意しました。これは、子どもたちに勉強する意欲が身に着き、ご褒美をもらう楽しみも味わえるようにと考えられました。子供たちも楽しみながらプリント学習に勤しんでいます。
 
②プログラミング学習
 今年から、2020年度より小学校で始まるとされている、『プログラミング学習』にも力を入れています。地元のIT企業であるサンダーバード株式会社さんの方がボランティアで教室に来てくださり、タブレットやロボットを用いて、その手法を教えてくれます。3か月に一度くらいのペースで実施される学習ですが、毎回「今日はどんなことをやるのだろう」と子どもも大人もワクワクと楽しみにしている時間です
 
(2)大切にしたい「心のケア」
 ここに来てくれているお子さんたちは、母子家庭というだけでなく、複雑な家庭環境に置かれているお子さんもいます。また、貧困という問題も多くのご家庭に影を落としているのがわかります。子どもたちは、何かにイライラ・ザワザワしているように見えるときがあります。本当は勉強どころではない、という日もあるのかもしれません。言葉では上手く伝えられない子どものそんな「気持ち」にこそ、周囲の大人たちがきちんと気づいて、丁寧に関わってあげることが大事なのではないかと考えるようになりました。
そして、学習会の中に『心のケア』というプログラムを取りこんでみることになったのです。
①子どもたちの「心のケア」
 子どもたちへの「心のケア」活動には、大きく分けて二つあります。
その一つは遊びです。子どもたちの勉強集中時間は1時間が限度です。2時間ある学習時間のうち半分は自由勉強ということで「遊び」も許可しています。館内探検に行ったり、講師とおしゃべりやカードゲームなどする子もいますが、お天気の良い日には、ほとんどの子どもたちが外に行って遊びます。講師や仲間と鬼ごっこをしたり、フリスビーをしたりして遊びます。お互いに体を触れ合わせながら思いっきり走ったり笑ったりすると、気持ちの切り替えもスムーズにできるようになります。自然と、無理のないコミュニケーションや人付き合いのルールを学んでいるように見えます。まさしく「遊びも勉強のうち!」のプログラムです。
 
 もうひとつは「心の天気」というワークです。これはフォーカシングの手法を取り入れたワークです。行うタイミングが少し難しいので、現在は緩やかな頻度で実施しています。
 今の自分の心の中のお天気を、目をつぶって想像してみます。それを絵で表現します。絵に上手も下手もありません。晴れが良くて雨が悪いということもありません。描いても描かなくもOKです。あとでその絵を描いた時の気持ちを発表してもらうのですが、発表をしたくないのならそれもOKです。大人たちはその時の子どものどんな気持ちもどんな表現も、「そうなんだね」と丁寧に受けとめます。それを淡々と続けます。
 
 これをしていたある日のことです。不意に自分の家族に起こった事件をボソボソッと話し出した女の子がいました。またある男の子は、小さい時にお父さんと家族全員で一緒に行った旅行のことを思いだして話してくれました。まるで心の中にしまっておいた秘密の小箱の蓋がパカッと開いて、スルスルッと言葉が飛び出てきたような、そんな瞬間でした。
 
 こうした「心のケア」は早ければ早いほどよいと言われています。それは小さいうちの方が、「絵を上手に描きたい」などと自分の気持ちを頭で操作したりするということが少ないからです。小さい時にこうした「心のケア」をしっかり受けた子どもたちは、将来、逆境の中でも自分で自分の心を安定させる力を発揮できるようになるそうです。
 
②お母さんの「心のケア」
 ひこばえでは、大人に向けた勉強会もあります。今年の3月、死別や離別を体験した家族を癒すグリーフケアというプログラムを推奨するNPO法人「サンザシの家」の藤田つぐみ先生のお話が前橋市にてありました。先生のお話の中に忘れられない一言がありました。「傷ついているお母さんは、子どもの話を一所懸命聴こうとして、知らないうちに子どもを自分の傾聴者にしてしまう」という言葉でした。私はハッとしました。子どもの話を聴いているつもりが、いつの間にか子供に説教をしたり諭したりしているということが、自分の子育て経験の中でも確かにありました。必死だったのだと思います。きっと、学習会にきている子どもたちのお母さんも、お父さんという一家の大黒柱のいない家に中で、一人で孤独に奮闘しているのではないだろうかと思いました。子どもたちだけでなく、お母さんにも心の安心できる時間を創って差し上げたいと考えるようになりました。
 
 そうして、今年の9月、お母さんが美味しいお茶を飲みながらホッと一息つける場所、「お母さんカフェ」を開催する運びとなりました。初回は二人のお母さんが参加してくれました。お二人とも共通する悩みが多く、外ではなかなか話せないことなども話してくれました。最後にお一人の方が「外ではお母さんの責任を責められることが多くて、それがとても辛いです。でもここでは誰からも責められません。責められないと余裕ができ、余裕ができると子どもの話をゆっくり聴いてあげることができます」とおっしゃっていました。またいつか「お母さんをカフェ」をできたらいいなと思っています。
 
(3)  悩み
 学習会には実は、大変なことが山ほどあります。口で言うほどに生優しいボランティアではなかったと、今頃になってしみじみ感じています。大変なことを全部云うと、一時間あっても足りないので、今日は今現在、前橋学習会が抱えている悩みの一つをお話します。
 それは、「分からないところで、分からないまま立ち止まっている子どもたちがいる」ということです。特に、算数の割り算や分数がよく分からないまま学年が上がってしまい、学校の授業についていけなくなってしまったお子さんたちがいます。学習会の中でも、(好きなことや得意なことは一所懸命やれても)分からないところでは立ち止まっています。分からなくなってしまったところまで、遡って教えてあげたくても、人手と時間の余裕がありません。また、本人もそこに触れられるのを嫌がり、進む意欲がありません。まだ落ち着きのない低学年の子どもたちに講師も手を取られてしまう為、この子どもたちの「立ち止まってしまったところ」にゆっくりと関わってあげられる大人の力が無い状態です。
 
 この活動が多くの人達の目に触れて、こうした子どもたちが一歩でも前進できるよう、手を差し伸べ助けてくれる大人や学生さん達が来てくれることを待ちわびています。動きの活発なお子さんを見守ってくださるだけでもありがたいです。
 
(4) 無料学習会の魅力
 この活動は、ボランティアする側にとってはたいへんなことが多いですが、実は「素敵なこともいっぱいあるよ」ということを最後につけ加えさせていただこうと思います。
 
 学習会では年間行事として、幾つかのイベントを企画します。学校ではないので、学校とは一味違うものを、講師ミーティングにおいてあれこれアイデアを出し合います。そして、子どもたちにとって、沢山のお楽しみと学びがあるようなイベントを考えます。これまで、夏はキャンプ、秋はハロウイーン、冬はクリスマス、春はカレーパーティーや6年生の卒業を祝う会などをやってきました。皆で野外料理をしたり、ゲームをしたり、ちょっと怖いお話を聞いたり、ケーキやお菓子の家やカレーを作ったりします。時間制限や厳しいルールはあまり作らず、ゆっくりゆったりと楽しめるように心がけています。今年のキャンプは、伊勢崎青少年センターにて、初めての一泊宿泊キャンプをしました。プログラミング学習のサンダーバードさんも来てくれて、ドローンを飛ばして見せてくれたりしました。
 
 ある五年生の男の子は、夏休み前に家の事情で、急にこちらに引っ越してきたため、前の学校の臨海学校に行けなかったそうです。ひこばえのキャンプでお泊りとキャンプファイヤーの体験ができて、嬉しいと言っていました。
 
 普段の学習会の中でも、子どもたちを見ていると「ああ偉いなぁ」と感じる場面がありますが、イベントをしてみると、さらに素晴らしい子どもたちの姿が沢山見られます。子どもたちのほとんどが、お料理が好きで上手です。キャンプに参加したある6年生の男の子は、夕食でお味噌汁をよそう係りをしてくれました。味噌汁をよそうのは、汁が椀の外側にこぼれたりしてなかなか難しいものです。その子は、手際よく驚くほどきれいに30人分をササっとよそうってくれました。その子は3人姉妹に挟まれたたった一人の男の子です。介護職で疲れているお母さんに代わって、普段からよく食事作りのお手伝いをしているのだろうなぁと感心しました。
 
 またある男の子は、キャンプファイヤーの夜のスイカ割の時、大きめにカットしたスイカを指さして「これ食べていいの」と訊いてきました。「いいよ」というと、「本当にいいの」「こんな大きなのを一人で食べていいの」と何度も訊いてきたのです。この子は、家庭の事情でずっと施設に預けられていました。この夏から家に戻れるようになって初めてキャンプに参加できました。この子は着ているTシャツも(スイカの汁で)汚さないようにと、上半身裸になって嬉しそうにスイカを食べていました。一切れのスイカをこんなに喜んでくれて、しかも(洗濯してくれる)母への気遣いも忘れないなんて、なんと感性が豊かで優しい子なのだろうと感動しました。
 
 他にも、つい誰かに話したくなってしまうような、ちょっと感動するような子どもたちのエピソードが沢山あります。こうした子どもの姿は、世間や学校では見逃されがちですし、気づいてもらえたとしても、特別に褒められもせず苦にもされない、そんな姿かもしれません。
 
 でも、無料学習会でボランティアをしていると、子どもたちのこんな姿こそが、何かとても尊いものに思えて、こちら(大人の)の心を揺さぶるのです。この子たちは、大人の理不尽な事情に巻き込まれながらも、人を傷つけることなどはしません。家のお手伝いをしっかりやり、ほんの小さなことにもいっぱい感動できる心を持っています。こんな子どもたちと一緒にいると、大人の方も何か新しい気づきを得て、できないと思ったことも「なんとかしなくっちゃ」「何とかなる」というような力と勇気をもらえるような気がしてくるのです。これが「無料学習会の魅力」なのではないだろうかと思うのです。
 ご清聴 ありがとうございました。